OPINION
流通各社が生き残りをかけて挑む
3月に入り流通業界のニュースが紙面を賑わせている。
3月5日にはトライアルホールディングスが西友の買収を決議。翌6日にはセブン&アイ・ホールディングスが社長交代を決め、両日ともに緊急会見が開かれた。
『トライアル・西友合同記者会見』と銘打って行われた会見では、トライアル側はトライアルHDの亀田晃一社長のほか、グループ会社のRetail AI永田洋幸社長、トライアルカンパニーの石橋亮太社長が出席した。対する西友側は最高財務責任者の野村優執行役員、経営企画本部長の竹田正樹執行役員の2名。大久保恒夫社長は「所用により」という理由で欠席となった。広報等についても西友側の担当者の姿はなく、会見はトライアル主導で行われた。
トライアルはITを祖業としており、最新鋭のシステムやカートなどを自社で展開。今後は西友にも提供するという。また、西友の強みとして人材、店舗、商品力、物流拠点等を挙げ、それらを活用しグループの成長に取り組む考えだ。
西友の再建についてはどうか。屋号の変更は現時点では考えていないというが、店舗がトライアル化することは容易に想像ができ、西友の名前が形骸化するのではないかと危惧する。
西友は20年ほど前、ウォルマートの子会社となった。ウォルマート流のEDLPなどを展開してきて、戦略としては定着したものの、売上げには結びつかなかった。ウォルマートは現時点で西友の株式を15%ほど保有しているが、トライアルにすべて譲渡する予定で、事実上の日本市場からの撤退となる。
一方、トライアルもウォルマートを研究しながら、小売業を展開してきた。創業者の永田久男氏(現トライアルHD会長)はウォルマートの手法を学び、店舗を出店。西友とは違う道で、ウォルマート流を歩んできたことになる。両社はその点で親和性が高く、ウォルマート流を深掘りすることで、グループとしての発展、そして西友としても再建の道が見えてくるかもしれない。
セブン&アイは新社長に難局を託す
セブン&アイHDのスティーブン・デイカス次期社長も、ウォルマートと関係が深い。過去にウォルマートのシニア・バイス・プレジデントなどを務め、西友のCEOも歴任している。
セブン&アイの社長交代の会見の中で、井阪隆一社長は退任について心残りがないかと聞かれると、少し考えて「心残りはない。自分ができる範囲でしっかりやれたと思っている」と述べた。本心なのかは知る由もないが、やりきった手応えはあるのだろう。「さらなる成長のためにこれまでと異なるフェーズに来ており、経営交代の最適なタイミングだった」として、デイカス氏にバトンを託した。
セブン&アイは現在、非常に難しい局面にいる。クシュタール社による買収提案、物言う株主との関係、日米のコンビニ事業の伸び悩みなど、予断を許さない状況が続く。そんな中での社長就任となるデイカス氏。就任早々、その手腕が試されることになる。
西友もセブン&アイも一時代を築いてきた企業。厳しい環境下にはあるが、そう簡単に凋落するわけにはいかない。
(杉本)